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ココは元S-Silence管理人の日記とかエッセイモドキとかが徒然とごにょごにょしている空間です
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感傷的な文章は若い方が書きやすいのかと思ってたけど、多分それは若いからじゃなくて、若い方が心持ちが大きく揺らめく機会が多いからだろうな。
初めての出来事、環境の変化、守るものの無いがゆえの特攻。そんなこんなで若輩はイベントの宝庫だ。
もちろん感傷にはホルモンバランスの影響とかもあるんだろうけど、それを言い出したら年寄りは映画で感激しない生き物ってことにもなりかねん。そりゃないだろう。他力で動く胸の内なら、自力でも動くんだろう多分イベントさえあれば。
まあ確かに、感激した時に心臓がグギィーッと痛くなる現象とかは、年を取ると起こらなくなってくる。あれは生物としての戦闘モードONによる痛みらしいので、身体能力とリンクして衰えるんだろうな。

年寄りの方が経験により共感性が上がり涙もろい、とか言うけど。
年を取ると自分自身に起こるドラマは少なくなり、冷めていく。
なら、いつまでも自身をドラマの中に置くと、いつまでも爪を持つのか?
来年になったら、S-Silenceの入ってるサーバレンタルサービスが終了するらしい。
変化の早い世の中に於いて、これでも長いレンタルスペースだったのかな。
石碑だけでもそのまま置こうかと思っていたサイトだが、同じURLでないならもう置く意味もないだろう。

今でもweb拍手が途切れなかったのを、不思議に思って見つめていたのでメッセージは多分もれなく見ている。ただ私にはどこで何と返事をすればいいか分からないので、時だけが過ぎたが。

自分の青春時代なのだが、懐かしむにもほぼ他人の様で、数年に一度くらい無為に時間だけを消費してみたい時に読み返すと下手くそだなと思って加筆修正したくなりつつ、しかしやはり他人の物みたいでどうしたらいいか分からない。なので取り敢えずは過去の自分が決めた事を守り続けているが、この状況で何をしたら作者が満足したのかは自分にはわからないなと思いながら時間が過ぎている。
現在進行系の伝説漫画、ワンピースを597話まで読んだ。
今からその感想を言うがストーリーのネタバレはひとつもしない。只々、売上部数でギネス記録をもつ覇王漫画の力に納得したので、その力の内容にだけ感想を言う。


【全部が一続きの物語】
約61巻分、597話まで読んだがこれが物語の中程らしい。長い。週刊誌での連載なので仮に一年を52週とするなら11年以上は掛かってる計算だ。その間に一度たりとも物語が途切れる事はない。
長期連載物の多くは、1話読み切りの連続だったり、各エピソードごとにキャラクターと舞台のみを引き継いだ別の話だったりする。
1話読み切り系の長期作の代表は、同じ週刊少年ジャンプ内ならばこち亀だろうか。それはそれで毎回全く違う話を考えるのも苦労するとは聞く。
各エピソードごとに別の話なのは、あまり長期ではないが幽遊白書やドラゴンボール。あれらは、推測だが、私には人気が出たから物語を付け足したというものではないとは思えない。1エピソードが終わるごとに作者が新たな敵と物語を考案して作成しているよう思える。それはそれで、どうあっても面白く描き切るという凄まじいパワーなのだが、ワンピースはそれらと根本構造が違う。
物語全体が一度たりとも途切れないとはどういうことか。例えばもしも人気映画シリーズが2時間作品×60本作られているとするなら、対するワンピースはぶっ通しで120時間の上映をされているような感じだ。全部を見てなくては話が全く話にならないという巨大な起承転結の構造がある。
第1話から一貫して次々に据えられていく布石。台詞や行動、物の形に至るまでが、連載期間を何年も隔てた後々にも突如つながり感慨をもたらす。何処にも切れ目がない。
さすがは作品名がワンピースなだけある。


【ギャグとシリアスとリアリティ】
描き方の細部の話をすると、これはジャンル的にはいわゆる「ハチャメチャ冒険ファンタジー」に属するので、リアリティはあまり求められないジャンルではある。だが私は、シリアスの間にもギャグを挟むというだけでなく、そのギャグに因って起こる動きそのものまでが本筋にここまで絡んで良い世界観を初めて見た。
何を言ってるか分からねえだろうが俺にもさっぱり分からねえ。例えばクソくだらねえノリツッコミのお陰でピンチに陥ったとしても、そんな理由でピンチになるなという気がひとつも起こらないのだ。
それは或いは画力のお陰かも知れない。顔芸だけでも見てて楽しいし、楽しい時間には何の不満も湧かない。
それは或いは人物の性格メイクのお陰かも知れない。キャラは多数だが全員がド変態(いい意味)である。全員が徹頭徹尾ぶっ飛んでるならそれはもうその世界の法則だ。大体にして主人公はそれこそ冗談みたいな性格をしていて、それが物語の肝でもある。こうなったらもう何でもありだ。
勿論、優れたストーリーテラーの作として、物語の原動力となる謎や困難とその解消は理屈でもって鮮やかになされているのだが、それはそれ、これはこれ。その際に、別に都合よく助けが来たって良いし、別に「この間のジャンプ力を見る限りでは跳べる筈じゃん!」という亀裂に都合よく阻まれてしまっても良いのだ。展開も物理法則も、全てはご都合主義で織りなされるが、そういうリアリティなんて物語の面白さには関係ない世界があるのが改めてよく分かった。


【キャラの魅力を説得する力】
リアリティは関係ないと述べた矢先だが、この作品には超リアルな所がひとつある。
人の感情だ。多分それはこの物語の主成分だ。
これは先に述べた、全話が一つの物語だというのとも大きな関係があって、この物語は俗に○○編と呼ばれる各エピソードごとに読んでも面白くない。
実は私は、偶然リアルタイムで第1話掲載の週刊少年ジャンプを買っていた。読めば第1話だけで泣けるという大変に良い作品だったが残念ながらジャンプを買う習慣はなかった。
その後、何年かに一度は病院の待合などで偶然に手にして細切れに見たことがあったのだが、その時には、絵が上手いなという感想以外あまり持てなかったのだ。台詞回しや展開については大げさだなという印象を持っていたように思う。
まあ考えてみて欲しい。現実の人間でもそうだと思うが、台詞というのは誰が言ったかに因って印象が違う。パチンコで破産した人がゴロ寝で言う「俺はもう駄目だ」と、職場でずっと頑張りを見せてきた人が言う「俺はもう駄目だ」が同じ印象な訳がない。
細切れに読んだ時にはフーンと思った台詞は、第1話から通して読んでいって初めて心打たれる台詞になる。それはつまり長い物語を通じて私はその人をよく知っているという状態にあるからだ。
その人をよく知るのに必要なのは、先ずは会った時の印象。もっと深く知るなら、その人がどんな考えで以て、何が起きたときにはどう行動した人なのか、する人なのか。それは現実でも変わらないと思うが、この作品では現実には不可能なほどにそこを掘り下げる。何故なら「ハチャメチャ冒険ファンタジー」には、起こり得ない程の極限の状況と行動選択があるからだ。なんならその選択をさせる為にならどんなご都合主義をも厭っていない。そうやって非常に丁寧に一人ずつを根気強く掘り下げていく。どんなに滅茶苦茶なスケールで話が描かれても、常に人をリアルに描く事を中心に据えられているように感じる。だからこそ、キャラクターの感情と共にこちらの感情も衝撃的に動かしてくる、いわゆるボロ泣き回が訪れる。そのエネルギーは他の漫画に類を見ない。物語とは緊張と緩和だが、これはまるで長い時間を掛けて限界を超えてもまだ引っ張り続けたゴムがその緊張の末に大爆発するかように一気に弾ける。記憶を消してもう一度読みたいという人が居る理由がよく分かった。


【というわけで】
私は半分、というとてもキリの良い所まで読んだ。冊数にすると半分ではないのかも知れないが、これが半分だと確信できる「区切り目」までを読んだ。なので、以後は完結するまで読まない事にする。本当はリアルタイム連載時にちょこっと先まで見た事があるが、この際なかったことにする。
巷では現在96巻まで販売されており、その展開や作者の発言から2023年くらいで完結と予想されているらしい。それまで後2~3年。それは非常にこの「区切り目」にふさわしい期間なので、私も完結までぶっ通せるようになるその時まで、しばらく続きには進まない事にする。
もしかして完結したら新聞沙汰になるんじゃないか。まあ少なくともネット上は大騒ぎになるだろうから、安心して忘れて暮らそう。そして愛蔵版が必ず出版されるだろうからそれを新品で全巻揃える予定で、今は頁を閉じるとする。
数年前にストーリー更新をずっと見ていたサイトだが、もうチェックしていなかった。そんなサイト3つに「さすがにもう完結してるかな?」と久しぶりに尋ねてみた。

とある小説サイト
……ストーリーは進んでいたが完結せず。中途半端な所で止まっていた。

とある漫画サイト
……ストーリーは進んでいたが完結ぜず。きりの良い所で止まっていた。

とあるビジュアルノベルサイト
……ストーリーは進んでおらず、かつサイトが無かった。
小学校での作成物がまだ残っていた。
この手の物は以前にまとめて処分したと思っていたが、残党らしい。
折角なのでチラ見してから捨てることにする。

習字やら、絵画やら、テストの答案まである。
やはり個人的に目を引くのは作文だ。以前にも思っていたが、自分は子供の頃から日記的な文章はあまり書いてない。内容は酷いものの何らかの「創作」をしている。登場人物は擬人化や架空の人物が多い。

小学校高学年の頃「ただただ今日の出来事を書いてて何がおもろいねん」とよく言っていたのを覚えている。運動会の思い出だの何だの。実際に人の作文を読んでも面白くなかった。……それは他人に興味がないからでもあるだろうが。
例えばの話、「玉入れの玉になって空を飛ぶ」みたいに平和な創作物ばかり書けたら良かったのだろうが、往々にして「賑わう運動場をひとり見つめる動けないポスト」みたいな苦悩系に走るからか、先生受けは頗る悪かった。尚、驚くべき事にこの頃の自分はハイテンション陽キャだった。

自分の体験を書けと命じられても拒否した覚えがある。勝手な創作文を書くのは、何らかのエンターテイメント性の追求、と言うよりは単に自分が楽しむ為、と言うよりは先生と言う名の大人への反抗心で書いてた面は有るかと思う。
はっきり言えるのは。
当時の先生達と同年代になったであろう今、作文の添削を読んで思うに。
同じ『いい大人』の立場から対等に語らせてもらっても、多くの添削に納得がいかない。
一応これでも日本語表現について考える時間は長めの人生だったつもりだ。
見渡す限りのサークルの新刊が、再録集ばっかりになったりするんだよな、そのジャンルが斜陽になると。

掃除をしていたら二次創作の18禁アンソロジーが出てきた。
駄目なパターンだ。まあ読むワケだな掃除中なのに。

長らく何も創作していない身だが、こういうお題物のアンソロジーなんて読むと、ちょっとばかし創作脳がむず痒くはなる。
もしも自分がこのお題を貰ったらどうするのか、と想定し始めるのである。

『お題』をこなす上で僕が大事にするのは、大きく分けて『必然性』『意外性』『文章力』だ。『文章力』の重要性は言うまでも無いことだが。
僕がアンソロジーに作品を提供する時には、最も重視するのは『必然性』だ。

例えば、お題が“ラブホテル”であったとして。
例えば、ちょっと反りの合わない二人が、飲んだ帰りに弾みで入ってしまったラブホテルで、気持ちを確認しあって目出度くゴールイン、というストーリーがあったとしたら。
おそらく僕は「家でやれ」と思うと思う。
そこがラブホテルである『必然性』が無ければお題がそれである意味が無い、と思うくらいには僕はクソ真面目だ。

『必然性』とは、キャラクターにとっての必然性ばかりではなく、読者にとっての必然性の方が大切だ。キャラクターがラブホテルでなければ何かが出来ない状況にいる事ではなく、或いはそれも含む何らかが、読者にラブホテルであるからこそ感じられる何かをもたらす事がお題の肝だ。

必然性を考える時、ラブホテルというお題はとてもハードルが高いと気付いた。
そうでなければならない理由が少なく、そして詮無いのだ。
突然に雨が降ってきてそこしかなかった?
人目を忍んで会えるのがそこしかなかった?
刺激的だと雑誌で見て行きたくなった?
背伸びしたくて誘ってみた?
弱い。どれも必然性が弱い。

反対にハードルの低いお題を考えてみるなら「お酒」とかかと思う。
酒というのは、飲みにいかないかという一言で簡単にシチュエーションが作れたり、口を割らせたり、記憶を飛ばしたりできる。凄い戦闘能力のキャラクターにも容易にピンチを作ることが可能で、拉致監禁もし放題だ。またファッショナブルゾーンでシェーカーを降らせたりも、オリジナルカクテルに意味を込めてサプライズすることも出来る。もしもウルトラCを狙いたかったらお屠蘇とか醸造に手を出しても良いかも知れない。とにかく、酒であることの必然性が見つけやすい。

『必然性』が見込めないとなると『意外性』に賭けるしかなくなるのだが、そこに何か展開を盛り込もうとしてもバリエーションがまた少ないのがラブホテルだ。
知り合いと会ってしまった?
騙して連れてこられた?
潜入調査することになった?
それらには特に目立った意外性は無い。逆に意外性が十分なアクシデントを加えると結局「そこラブホでなくても良かったんじゃないの?」というくらい明後日の方向へストーリーへ脱線しそうだ。

根本から考え方を変えなければならない。

思考の途中経過をスッ飛ばして、結論から言うと。
恐らく「ラブホテル」のお題を貰った僕が書くのはギャグエロ作品になる。
キャラクターはストーリー中で、ラブホを舞台にしたコント劇を演じる羽目になるが、実はモノホンの二人だったため台本をこなしつつも裏では勃つや勃たんやの小競り合いをしているというお色気ギャグ。ラブホである必然性は作中劇の台本に盛り込む努力をしつつ、最後はちょっとシリアスにマジギレ台本無視で啖呵を切っちゃう冷や冷やシーンを入れつつ大団円、周囲の反応と後日談はまたギャグで締める。
詰まり、必然性と意外性を担わせる箇所を根本的に変えてみた。
意外性についてはシチュエーションと作風自体という全体に背負わせる。
勿論、これで実際に完成させたらどれくらいのクオリティまで行き着けるのかなんて分からない。
でも、この路線なら原稿を提出した後で誰かとネタが被っているという事は、まずないと思う。

自分が結構ネタ被りを怖れているんだといま気付いた。
アンソロジーを手にして、この話はさっきのあれとほぼ同じ展開だな、と思うこと、思われることを避けたがっているんだろう。それは多分、次々と新しく現れる色んな景色にずっとわくわくしていたいからだろう。「そうきたか!」と言いたいし言われたいんだろう多分。
そう思うとこれ、ラブホテルというお題自体が失敗……いや、そこはハードルが高いと思わなければ駄目か。やれば出来ない事はないはずだ。きっと僕とは全く違うひらめきを持った人がいて、僕には思い付きようもない話を持ってくるんだろう。

「こうではないというならば対案を示せ」
そう自分に投げかける所から始まるこうした想定遊びは、自分の難儀さを逃がす謂わばガス抜き遊びだ。人にはあまり言わない様にはしてきたが、僕は脳の特性上、自他に対して分析的かつ批判的なアプローチをする傾向がある。部活でトレーニングなんかをする時には評価や難点の指摘は役に立つものだったが、大人になったら活用するシーンなんて殆ど無い。なので偶にこうして無駄なエンジンの空吹かしでもしてるんだろう。

 自分より背の高いサトウキビの畑は、距離の感覚を狂わせた。もうどれほど分け入ってきたのか。朝から居るが今は日が高い。暑い。
 地面から昇ってくる湿度が土臭くて咽せそうだ。場違いなワイシャツが汗で首筋に絡みつく。
 作物を掻き分けて進み、見上げると、がさついた緑の単子葉が重なって思わせぶりに空を透かしている。くらりとする。足が重い。
 期待した通り、たった一人で行き倒れられそうだ。
 彼がここに来る切っ掛けはつい昨日。夏の過酷さとは切り離された快適なオフィスでのこと。新製品です、と差し出された菓子箱の中にあった小さなパンフレット。
 完全有機栽培のサトウキビから作られる自然な甘味。そんなキャッチコピーは読みもせず、大規模農場を見下ろす航空写真に心引かれた。一面の黄緑色。
 死ぬなら都会の香りが微塵もしない場所でと常々思っていたのだ。
 うだる。このまま脱水症状で逝けるかもしれない。歩くのをやめて寝転がる。深呼吸すると、地面付近に溜まった有機物の匂いを濃く感じて嘔吐きそうになる。黄緑の底から青空の欠片を見上げる。
「何してるんかい」
 突然の老人の声に肩が跳ねた。このだだっ広さで人に会うとはまさかだ。身を起こす。
「貴方こそ何を」
「バッタとか取っとるね」
「はあ。そうですか」
 長いどた靴も、泥の汚れも、見るからに貧しい農家のおばあさんだ。彼女は勝手に隣へ腰掛けてきた。じっと覗き込まれる。
「あんたねえ、覚悟を決めた顔をしとる人は、死に神も避けるよ」
 動揺が先走り、何の話ですか? と白を切る勇気が出なかった。
「なぜ、分かります」
「あたしはもうそういう領域に入ったんさ」
 人生経験が深く刻まれた皺だらけの顔に頷かれ、見透かされた不快よりも、ほっとした。所詮は見知らぬ関係だ。
「仕事がつらくて。しかし辞められる立ち場でもないので、それで」
「そら困ったな。ふーむ、困ったあ……」
 まるで自分の悩みの様に老婆はうーんと唸り込んだ。
「困りますか?」
「だってあんた、生きる死ぬゆうのはそうそう気ぃ変わらんもんだろし」
 その通りだ。下手な慰めを言わぬのはなるほど、年の功か。
 貴重な聞き手を得て、肩の力が抜けた。
「我が社は『人生を幸せにするお菓子を』とかいうスローガンのメーカーで……笑えますよね。私すっかり菓子嫌いになりました。ついでに人生も」
 老婆は、はっはっと高らかに笑った。
「菓子ねえ、この辺に生えとるのは全部材料みたいだけど? ま、こんな上等なもの口にしたことはないね。あたしらのお菓子はみんな大体これだったわ」
 取り出されたビンには、カサカサと乾いた音を立てるバッタが十匹くらい入っていた。
 しわしわの老婆は、少し昔の事を語り始めた。この一帯は村人にとっては先祖伝来の農地で、自身も何十年も命を注ぐように丹精込めて世話をしてきたと。各々の村人が多様な作物を作り、助け合って暮らしていたと。
「でもなあ、みんなやっぱり、お金詰まれたら土地売ってしまったんよなあ。あたしは死んでもここ離れられんから、今はひとりぼっちよ」
「寂しいですね」
「そうねえ。だからこれは思い出の味なのよねえ。ほら、一個あげよう」
 バッタは黒ずんで軽かった。
「いえあの……」
「揚げたらカリカリで美味しいし、栄養あるし。エエおやつよ」
 老婆が躊躇なく一匹を口に放り込むので、やむなく食べてみる。香ばしく、えびせんに近いが。
 全く旨い物ではない。
 彼女らはどういう気持ちでこれを常食したろうか。これを食べようと思えるほど自分は死ぬ気で働いていたろうか。
 帰ろう。
 立ち上がって礼を言う。
「いい顔んなったねえ」
「おかげさまで」
 憑き物が落ちた心地がする。死に損ねたようだ。
「……命を差し出すと言っていたのに、なぜ避けるんでしょうね死に神は」
 老婆は吹き出しだ。
「そらあんた、面白く無いからさあ。そんな捨てられるゴミのようなもん」
 スマートフォンの電源を入れてGPS機能をONにするだけで、程なくヘリコプターの羽音が聞こえた。近くに着陸する気配。やってくる複数の足音。
「ご無事でしたか社長」
「盛大に迷ったよ。すまないね。とんだ視察になって」
 農道まで案内され、そこからはヘリで、あっという間にサトウキビ畑の上空だ。
 密閉された窓からは眼下に、写真と同じ一面の黄緑が見えた。
「ここ、随分と農地集積したんだね」
「あ、ええそうですね。元は持ち主がバラバラで」
 社長はふと振り返った。老婆は死んでもこの土地を離れないと言ったが、確かにこの農場は現在、すべて我社の敷地である。
「君、聞きたいんだが、ここの農地買収は……」
 その時、ヘリの内部にゴウン! と重い轟音が走った。
 何だ!? と搭乗者全員がコックピットを振り返ったが、残念ながらパイロットは操縦桿を握って青ざめるだけだったのである。
 老婆はサトウキビの隙間から、空を、ヘリコプターの黒煙を眺めている。
「復讐ってのは面倒なもんだな。なにせ、生きたい奴でなきゃ殺す意味がない」




  (以上、1997文字)

課題内容:「匂いで空間を表現」「失笑」「スイーツ」「上限2000文字」





人類共通の病、ゴールが見えたらゴールした気分になってしまう病。
発病。

文字数よりも、
ラストシーンまで全行程のあらすじが貫通した事のゴール感がデカい。
たまーに、この後、大つじつまが合わない祭が開催される。
結構もりもりある。これは一種のストリップ画像。

 
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