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ココは元S-Silence管理人の日記とかエッセイモドキとかが徒然とごにょごにょしている空間です
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 クラスの教室に小太りのセールスマンが訪ねてきた。
 このクラス全員を死なさせて頂きたいとの事だ。
 まあいいですよ。ありがとうございます。
 死に神は白い砂を撒いて、ちらちら落ちてくるそれが口の中に堪った。
 この白い粒が近日死亡の運命らしい。
 クラスの卒業イベントの日、先ず一人目が死んだ。
 それでもイベント準備は進む。舞台設営、僕は細面な業者のおにーさんから教えてもらい、高圧に繋ぐプラグを任された。
 手元のプラグを見ると、一カ所断線している。
 ちょいと、おにーさん。これは挿すと死ぬでしょう? 死に神のおにーさん。この前の人でしょおにーさん。
 幾ら何でも分かってて挿せないよ。怖いよ。詫びとして一番楽に、眠るようにいかせてくれよ。
 そうは言われましてもねえ、とりあえず別の場所へ。
 あ。じゃあついでにトイレ借りますね。
 トイレから窓の外を見ると、モモンガが崖の下へ飛び降りていくのが見下ろせた。海辺に生えた松に捕まるモモンガを見て、最後に見たのはモモンガになるのかあ。と思う。割と可愛いし、いいか。
 いや良くないだろ。思いだした。
 此処は診療所みたいな所だが、奥に喫茶スペースがある。そこで死に神さんと談判する。
 すまん、忘れてた、死ぬと分かったら伝えなきゃならん奴が居るのを忘れてた。ていうかさっきまでイベント準備で一緒に居たから(現実としてはそこに居る訳無い人だが)いつでも言う事が出来たはずなのに、なんで言わなかったのか。
 いま携帯で電話掛ければ?
 あ、そうか。うん、番号は分かる。初めてだなヤツに電話掛けるのは……ってダメダメ!
 電話だったら僕が喋る事になる、そうじゃなくてシズが喋らなきゃダメなんだが、ネットを介さないとシズは喋りようがない。
 頼むからそこにあるPC一分貸して!
 駄目。
 死に神達の情に訴えようとはしているが、上手くはいかない。
 携帯を操作してみるが、普段操作しないのでフルブラウザの表示に手間取る。その内にバッテリーがローになる。ていうかやり方やっぱし分からない。
 辺りが暗くなってくる。
 もどかしいな、さようなら、って一言だけでいいんだよそれで絶対意味通じるから。
 頼むから一言だけ連絡させてくれとは食い下がってみるが、死に神さん達からすると“先に来た人”は大人しくしてるのに僕だけ騒ぐのが気にくわないようだ。
 辺りは夜になった。此処はもう二度と携帯電話を充電する事は出来ない所だ。
 気が沈んで、更に、かなり暇だ。
 薄暗い夜で野外、木の椅子に座り、木の机の上に手作りアクセサリーを(現実にはそんなもの作る趣味は無い)人差し指で弄るように並べる。
 と、僕より“先に来た人”に、向こうからの客が通された。それは“先に来た人”と一番親しかった人々らしい。四人くらいだ。
 会わせて貰えるものなのか。やはり彼女は僕より死に神達の覚えが明るいらしい。
“先に来た人”は賑やかに囲まれて、囲む人の一人から歌を送られていた。いいな、そんなに沢山言葉が伝わって。僕は一言でもいいのに。
 さようならと一言伝わったら、『会えて良かった』だとか『今まで有り難う』だとか、『大好きだ』とか、『去年の誕生日の事を忘れない』だとか、『それより前の誕生日と、誕生日以外の全部の時間を忘れない』だとか、そんな事を、これまで過ごしてきた膨大な雑談の時間と同じ様に延々と伝え続けていたかったので、それでさようならだけにしたのだとあの人ならきっと分かってくれるだろうと思っていた。
 やがて、僕にも客が通された。僕の友人達であるが、僕と一番親しい人ではない人々だった。(現実的には一番の人はそもそも来ようとしない気もする)
 友人はあの人からだと言って、(現実にはあの人と知り合いでもない人だったが)預かってきた物を木の机に乗せた。黄金の首飾りだ。ごろごろと大きな黄金の玉に龍が彫ってあるような装飾で、それを一周繋いだ豪華な物だった。薄暗い夜の中でもはっきりと明るく金色だった。
 首飾りを持ってきた友人の話に因ると、僕があの人に贈ったブレスレットは、僕が死んだ時に珠を繋ぐ紐が切れて飛び散ったという。(現実にはそんな物は贈っていないが)
 壊れたのか。じゃああの人は何かを察したろう。じゃあムリにさよならと伝える必要は無かったかもな、きっと分かったろう。と納得する。
 あの人は飛び散った珠を拾い集めてまた繋いだそうだ。それは少々納得がいかなかった。あの人の性格なら何となく、死で散った物なら散ったままにしておきそうな感じがするのだが。
 ああまあ、他に何も無いから仕方なくかもな。
 僕はいま自分が着けている銀の翼のペンダントを首から外した。これはここ十二年、外す用事が無い限りは常に身に付けている物なので(それは現実にもそう)かなり僕に縁が深い品だから魔力も高いし大丈夫。これをあの人に届けてくれ。
 僕は代わりにこの黄金の首飾りを常に身に付ける事にしよう。そうすればこの退屈すぎる薄暗い夜の世界でも、少しは楽しく過ごしていける様な気がする。でもやっぱり話がしたいとは思ってしまうものだな。これっていつかまた会えるものなのだろうか。これから長い時間になりそうだ。

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