「鎖国しているつもりでもなかろう?」
「それは勿論」
「貴公の国も歴史は長い。連合加盟諸国は今からでも貴国を迎えるはずだが」
「片足はつっこんでますよ。それが返って邪魔なのは分かりますけれどね」
こういう埒の明かない話はもう何度も繰り返した。
貿易連合が発足して以来、信じられない程にこの星の交通は発達した。もはやその航路を使わねばまともな商売は営めぬ程である。昔ならば数日間、下手をすれば一ヶ月も倉庫に積みっぱなしだった物が、今日では十五分後には数カ国に渡っているのだからまこと文化の発達はめざましい。
「だのに貴公は何故、旧街道にこだわるのか」
「貿易連合は真にグローバルでしょうか」
質もスピードも素晴らしく、この世界の経済を確かに支えている連合。しかし。
「速いのはご近所だからですよ。実は狭いんです。地産地消はエコ的な観点からも利があり、また生産者の顔を知っている安心感も有ります。そうしてずっと一所で暮らす事も選択肢の一つでは有りますが、そうしたら連合の外で生まれた新しい風は機を逃すばかりかも知れません。我が国は鎖国の思想から遠いからこそ非加盟なのですよ。私は新旧の別なく、取引国にはなるべく同じ値で同じ物を卸したいのです」
一息にそこまで話し終えた頃には、眼前の者は渋い顔で、大いに背凭れを使っていた。
「そこまでの弁をつらつらと並べたてる人は連合側も受け容れにくいだろうね」
こういう埒の明かない話はもう何度も繰り返した。
諦めた彼が帰ったので呟いてみる。そりゃ貿易連合の特産品は俺だって欲しいっつーんだよ。
偶に自分が何の為に意地を張っているのか分からない時がある。引いては自分の為、だった筈が、段々と頑固者が時代の流れを無視する耐久レースをしているだけであるかのようだ。
連合内では曲がった野菜が美味な癖に破格の値段で置かれていたりもする。そんな時は特に迷いは大きくなる。
「悪いね、ウチのコレは連合のグループ4thにしか卸さない盟約なんだ。てか貴方そもそも連合で活動してない人に見えるんだけど……」
曖昧に笑って身を後ろに引きながら、この疎外感ときたら無いな、と一人胸を痛めるが、自傷か他傷かも分からないのが気持ち悪い。
けれどしかし、この疎外感のお陰でまだもう少しだけ意地を張っていられる。吹いているのかいないのか分からない新しい風と一緒の世界へ帰ろう。