良い部屋を宛がわれた。クラシカルで豪華な内装だ。一人で使って良いらしい。
荷物を置いて部屋を離れた。
帰ると見知らぬ壮年の数人連れが部屋で荷解きを始めていた。手違いで同じ部屋の鍵を渡されたらしい。
係を呼んで速やかに出て貰う。
本当は、清掃後に誰かが一度でも腰を下ろしたソファなど使いたく無かったが、新しい部屋を用意はしてくれないらしい。
係が宿泊者リストを見せてくれる。
上から三名に丸が付いていて、僕もその中の一人だった。この三名については、PC操作に難が無かったのでノートPCを無料貸出してくれるらしい。
要るか、と聞かれて迷ったが、一応要る、と答えた。
何にどの程度使うのかを、共に風呂に浸かりながら根掘り聞かれた。
建物の外に出た。
地上の人々は絶えず振ってくる鳥の糞に苛まれていた。しかしそんな地上を当たり前だと思っている様だった。誰も何とかしようと思っては居なかった。
空中楼閣へと登る事にした。その中央の外壁に取り付いて登り、中央のハッチを訪ねた。地上から見れば、自分が今、この上界の中でも取り分けて高級な女を買ったのがすぐに分かるだろう。
この女がこの空中楼閣の支配者級な筈だ。
空中楼閣には右と左に張り出した翼の様な部屋があり、ガラス張りになっていて外の様子がよく見える。その左の翼の先端に、自分と女は居た。
外を見ると、相変わらず地上の人々が苦しめられている。
背後、数メートル離れた暗がりに座していた女は言った。
何かをしたいと思って此処に来たのでしょう? けれど来たらその気持ちを忘れてしまったのでしょう? 頭を変えられてしまうのよ。熱い感情など、貴方から、もう無くなって居るでしょう?
その通り、いつの間にか自分はこの整然とした静かな部屋で、彼女と穏やかに過ごす事をとても心地好いと思っている。彼女が自分の頭から感情という力を奪ったのだと、知って尚だ。
空中楼閣の左の翼を地上近くに下ろしてみた。
惑い、見上げる人々に、上界に組した自分の姿を晒して、私がもはや地上の味方ではない事を印象付けておいてみる。この姿をよく覚えておくといい。
立ち上がり、振り返り、私の破壊活動が始まる。人知れずたった一人でこの要塞を落とす。
気持ちに熱さはやはり無い。唯、静かな使命感だけが冷たいままの胸に渦巻き、私を突き動かす。何処までやれるか分からないが。
力尽きるまでは、やる。それだけだ。