いつ何を問われても胸を張って答えられるよう日々公明正大に生きなければならないよ、そうして人にも自身にも同じく純白の正直であるよう心掛ければ自らが徳化して誰からも慕われるようになる、それが人の世ってもんだ、とまあ先方は如何にも分別くさい説教を滔々と垂れてくれるので、純白の正直ってのは手前の思想をさも天地開闢以来不動の理であるかのようにご披露なさってるそれの事ですかね、そんなら試しにこのまま続きも謹聴つかまつってみてもいいですが、それが終わったころ私が貴方を今より慕っているかどうかは些か雲行きの怪しい所でございますな、と返しかけてやめた。
遺憾ながらこっちにはそこまでの面の皮はない。
分別がある、分別する、分別盛り、分別所、分別らしい
林檎と蜜柑を買ったら残金は小遣いにしろ。
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手持ちが足りなかったので、残金は後日に支払う約束をして買った。
自分の交友関係をリストアップして、親疎の度合いを5段階評価したところ3ばかりが並んだ。さて誰に相談したものか。誰でも良いとも言えるし、誰もが不適切とも言える。
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君の親疎関係をいちいち考慮した人選をしてはいられない。
この前人未踏の感覚を名状しようとするならば新単語が必要だ。
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深刻ではないものの、なかなかに名状し難い問題ではある。
殴る
斬る
殴打する
叩く
蹴る
体当たりする
チョップする
払う
突く
頭突きする
抓る
引っ掻く
噛む
一閃する
投げる
絞める
引っ掻ける
突き落とす
打つ
潰す
パーティ会場は今や地雷原だ。対立する三派のどれにかち合っても私は味方だと認識されるのだから、どのように立ち居振る舞えばよいものやら分からぬ。冷や汗だけ出て、妙案は出ない。
いっそ不在とした方が自分の立場は保たれるだろうか。いや駄目だ。此処でエスコート役を放り出して去ったなら、その時には彼女の父君から死刑宣告を浴びせられかねない。
「ゆきましょう」
左下からの涼やかな声が、どろどろとした私の煩悶を冷水のように引き締めた。左腕に掛かってくる女物の腕の重みが現実を思い出させた。
やれ。やるしかない。私は安物の絵の具チューブからしぼり出したような余裕の色を顔の表面に塗りたくって、そうですねという発音をしてみた。そこそこ様になっているはずだ。
類:懊悩、苦悩。葛藤
小さな閂だったがサビが酷く、鉄製の扉に膠着していて素手で動かすのは骨が折れる。
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迷うのか、迷うべきではないのかまでもが迷いの対象となり始める。生産性のない熟慮は唯の足踏みだ。細やかな密度で自らの四方を封じてゆき、やがてどちらにも動けない。気付いた時には胸の内は完全に膠着していた。
困惑する
躊躇する
はにかむ
首を傾げる
閉口する
おどおどする
たじたじする
逃げ腰になる
焦る
狼狽える
迷う
まごつく
目が泳ぐ
たじろぐ
泣きが入る
冷や汗を掻く
身を固くする
判断に窮する
慌てふためく
取り乱す
そのクオリティは余技作品の域を脱している。
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彼の専門は油絵であり、水墨画は余技で描いているのだそうだ。
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僕の実力では余技展への出展がやっとだね。
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息をするだけで知能が必要か? 趣味や余技があるから文化なのであって、食べて生きるだけでは人間とは言わない。そういう意味では君は実に野生動物に近いと言えよう。
涙する
耐えられない
号泣する
崩れ落ちる
泣く
肩が震える
唇が震える
くしゃりと顔が歪む
俯く
打ち拉がれる
死にたい
目の前が滲む
胸が詰まる
嗚咽する
泣き腫らす
沈み込む
目を伏せる
苦笑してみせる
塞ぎ込む
涙腺が壊れる